

茶室だより
【家元継承記念 龍光院研修会】2026 2026年5月16・17日(日) 大徳寺龍光院[京都市北区]
令和8年の小堀遠州流松籟会研修会は、昨年(令和7年)に小堀遠州流第十七代を継承された宗峯家元へのご祝意を込め、京都・大徳寺の塔頭龍光院の小堀月浦和尚様より「禅に触れる研修」のお場を賜り、執り行われました。葵祭の週末、5月16日・17日のことです。宗峯御家元とともに、限られた人数の門弟が、創建から420年という尊い空気の中へと温かくお迎えいただきました。
研修は2日間にわたり行われ、幸いにも両日とも晴天に恵まれました。龍光院は慶長11年(1606年)筑前福岡藩主・黒田長政公が父君である黒田官兵衛(如水)公の菩提を弔うために建立された地です。現世での生を全うされた方が静かに眠り、開祖の法燈と弔いの精神が今なお息づいていらっしゃいます。
当日、門より少し奥へ進むと受付があり、そこには和尚様ご自筆の進行表(作務・斎座・坐禅・茶会の刻限)が掲げ出されていました。研修に先立ち、月浦和尚様からは「とにかくまずはやってみて、感じてください」と短いお言葉をいただきました。説明や頭での理解にとらわれることなく、一同はそれぞれ割り当てられた作務へと取りかかります。
私の作務は、 石畳の脇に散る落ち葉や草を取り除くものでした。「吉報・愛」の花言葉がある姫あやめの間へ入る落ち葉を弟子の皆様とともに黙々と一枚ずつ拾い集め、場を整えていきます。皆が整然と動くその佇まいには、日頃から丁寧にお手入れされているお庭の姿が重なり、日々の鍛錬のあり方に深く感銘を受けながら、無心で作業に没頭いたしました。また、指南役を務めてくださったお寺の方々の無駄のない段取りと素早い身のこなしにも目を見張るものがあり、龍光院の凛とした日常の一端を拝見した心地がいたしました。
作務(掃除)お庭の草むしり
続いて、斎座(昼食)の準備へと移ります。作務の合間に斎座班の皆様が準備してくださったお膳を前に、全員が着席したのち、読経とともに静かに黙食が始まりました。私はここでも別の指南役のお隣に席をいただいたのですが、その俊敏な動きには驚かされるばかりでした。こちらが一口ずつかみしめ半分くらいいただく間に、すでに器をお清めされていらっしゃるのです。一同の動きをご覧になった和尚様から「慌てず、自分のペースで食べてよい」とお声がかかりました。 周りの気配を肌で感じながら、全体が食べ終わった静謐の空気を感じ全体で合掌。各々片付けへと進みます。進行の都合上、参加者は器の分類と清める場所への運搬までを担い、最後の仕上げは役員の方々が引き受けてくださいました。坐禅を終えて外へ出た際、青空の下に整然と干された道具類を目にし、自然と胸の前で手を合わせていました。
斉座(昼食) まずお経を唱えて
坐禅は昭堂(本堂)にて執り行われました。創建当時からの床や建物、静かに佇む木像に囲まれ、深く息を整えて坐ります。低頭し、和尚様から警策をいただいた瞬間の身体に響く感触、他の方々が打たれる時との音の違い。ここにいながら、どこか遠くにも近くにもいるような、不思議で清らかな感覚に包まれて時間を終えました。
坐禅される御家元
警策を受けられるご様子
最後はお茶会です。宗峯御家元がご亭主、御正客には月浦和尚様をお迎えし、今日という日やこれまでの歩みについて、温かな会話が交わされました。参加者の来所にまで和尚様が心を寄せてくださり、場全体を一つに包み込むようなご配慮も含めて、研修の冒頭に和尚様が「感じてください」と仰っていた「今日それぞれの参加者が感じ胸に残ったもの」が「宝」になった瞬間だったかもしれません。私はお運びを仰せつかっていたため、お話の全てを拝聴することは叶いませんでしたが、水屋でお寺の方とともに静かに控えられていた御家元の実弟・宗晋様のお姿を拝見し胸が熱くなり、見えないところでこの会を支えてくださった全ての方々への感謝が再びこみ上げてまいりました。お運びの際には、この場の空気を乱さぬよう、自らの存在を消すような心地で静かに勤めましたが、果たして叶っていたでしょうか。
お点前をされる宗峯お家元とお正客は小堀月浦和尚様
帰路の機窓からは、行きで見事な姿を見せてくれた富士山は暗闇に隠れて見えませんでした。けれど、二つとない「不二」の山を遠望しながら向かったこの度の研修は、素晴らしいご縁とタイミングが奇跡のように重なり合って結実した「400年越しのひととき」であったと胸に迫るものがありました。帰宅後も、参加前とは明らかに異なる意識が自分の中で働き始めており、まるで「第二の研修」が静かに始まったかのような感覚を覚えております。
二つとない「不二」の山
せわしない日常を離れ、このように心が清め改まる貴重な機会を賜りましたこと、ご尽力いただきました全ての皆様に心より深く感謝申し上げます。
神奈川支部 銭谷宗泉


